カチョ・エ・ペペから始まり、
グアンチャーレと出会ってグリーチャへ。
さらにトマトが加わり、アマトリチャーナへ。
ローマのパスタは、「素材を足していく」ことで進化してきました。
その進化の系譜の最終地点に位置するのが、今回の主役――カルボナーラです。
カルボナーラは、ローマ4大パスタの中で最も新しく、そして世界的に最も有名な一皿です。
その一方で、「生クリームは使う?使わない?」「どうしてダマになる?」など、家庭で作ると一番つまずきやすいパスタでもあります。
本記事では、グリーチャとの構造的な違いから、卵が固まらないための温度管理、本場ローマ式カルボナーラの考え方を軸に、失敗しないカルボナーラの作り方を解説します。(私はカルボナーラだけは自信あります、本当です笑)
カルボナーラ成功のポイントは以下の3つです。
- 卵を火にかけない
- グアンチャーレは極弱火で「脂を引き出す」
- フライパンではなく、ボウルで火をしっかり入れて仕上げる
なおこのレシピは、ローマ4大パスタ同時調理検証の第3弾です。
パスタの進化の歴史や、4皿を同時に作る戦略についてはこちらをご覧ください。

これまでローマパスタの変遷を3皿を通して見てきた今だからこそ、カルボナーラの完成度の高さが、はっきりと見えてくるはずです。
カルボナーラは「卵」が加わったローマパスタの最終系
カルボナーラは、カチョ・エ・ペペ、グリーチャ、アマトリチャーナと続くローマパスタの系譜において、「卵」が加わったローマパスタの進化の最終形のパスタです。
その誕生には諸説ありますが、最も有力なのが1944年、第二次世界大戦下のローマ解放にまつわる物語です。
当時、ローマに駐留していた米軍兵士たちが持っていた「Kレーション(携帯食糧)」には、卵の粉末とベーコンが含まれていました。現地の料理人が、この「卵とベーコン」を、ローマ伝統の「グリーチャ(グアンチャーレとチーズ)」と組み合わせたことが始まりだと言われています。
ペコリーノ・ロマーノの塩味、グアンチャーレの脂、ブラックペッパーという骨格はグリーチャと共通ですが、そこに卵黄の濃厚なコクが加わることで、味の厚みと一体感が一段階引き上げられます。
本場ローマのカルボナーラは生クリームを使わず、卵・チーズ・脂・胡椒だけで成立する、極めて理にかなった構造の料理です。
※卵ではなくトマトで全体をまとめたアマトリチャーナのレシピを詳しく知りたい方こちらをご覧ください!

カルボナーラのルール
これまでの全ての記事で書いてきましたが、伝統的なローマパスタに共通しているルールがあります。
はい、チーズは必ず「ペコリーノ・ロマーノ」であること。
カルボナーラはグリーチャに卵を加えたパスタですが、味を決めるのはペコリーノの塩味であり、グアンチャーレの脂であることは変わりません。これはもうローマパスタに共通するアイデンティティです。
またカルボナーラは、ちゃんと火を入れないと卵和えパスタになってしまいます。
フライパンで火を入れるのはかっこいいですが、個人的にはボウルで湯煎するバーニョ・マリアがおすすめです。
カルボナーラの食材(1人分)|生クリームを使わないローマ式の基本
基本はグリーチャに卵を足すだけです。生クリームは使いません。
生クリームを使ったカルボナーラも美味しいと思いますが、本記事ではローマ伝統の「卵・チーズ・脂・胡椒」だけで成立するレシピに絞って解説しています。
また卵は卵黄のみか全卵か悩む方も多いと思いますが、私はカルボナーラは濃厚でなんぼだと思っているので卵黄のみが好みです。
- パスタ(スパゲットー二など、2mm以上の太いパスタがおすすめ):80g
- ペコリーノ・ロマーノ(ブロックから削る):20g
- ブラックペッパー(マリチャ):お好みの量(多めがオススメ))
- パスタの茹で汁:適量
- グアンチャーレ:30g
- 卵黄:2個(濃厚すぎるのが苦手な場合は卵黄1個+全卵1個でもOK)
シンプルだからこそ食材にはこだわりたい
MANCINI(マンチーニ)のスパゲットー二
マンチーニは、イタリアのマルケ州に本社を構えるパスタメーカーです。
2010年創業と若いパスタメーカーですが、彼らの最大の特徴は、イタリアでも非常に珍しい「自社栽培の小麦のみを使用する」という徹底したこだわりです。いわば「農家が作る、パスタの理想形」です。
一般的なパスタは効率重視で高温短時間乾燥させるのに対し、マンチーニは45度以下の低温で最大60時間という長い時間をかけてじっくり乾燥させます。
これにより、小麦本来の豊かな香りと栄養、そして「もっちりとしていながら歯切れの良い」唯一無二の食感が生み出されます。そして茹で汁にデンプンがしっかり溶け出して乳化を助けてくれます。
またブロンズダイス(伝統的なブロンズ(真鍮)製の金型)でパスタを押し出すので、表面にザラザラとした「サメ肌」のような質感が生まれます。これがグアンチャーレのパンチがある旨み脂とペコリーノ、卵のコクが溶け出した粘度のある濃厚なカルボナーラソースをしっかりと捕まえてくれます。
ローマパスタにはブロンズダイスのパスタが必要不可欠です。

MARICHA(マリチャ)のブラックペッパー
マリチャは、イタリアのヴェネト州ヴェローナの会社です。
ロミオとジュリエットの舞台としても有名なヴェローナでジャマイカカフェを構えていたジャンニ・フラージさんが、世界中の胡椒産地を探し回って見つけたマレーシア、サラワク州の黒胡椒です。
通常、ブラックペッパーは未熟な実を収穫して乾燥させますが、マリチャは木の上で赤く完熟した実だけを丁寧に手摘みして、収穫から24時間以内に加工します。これにより、鼻に抜ける爽やかな柑橘系の香りと、後から追いかけてくる力強い辛みが共存するとのことです。
マリチャの最大の特徴は、独自の乾燥・選別プロセスです。
不純物を徹底的に取り除き、胡椒が持つ「精油成分」を壊さないように仕上げられているため、ミルで挽いた瞬間の香りの立ち方が他の追随を許しません。
マリチャはまさに「胡椒の宝石」です。マリチャの黒胡椒は、単なるスパイスの枠を超え、料理全体の輪郭をくっきりと浮き上がらせる「最後のピース」として機能します。
マリチャの黒胡椒はローマパスタを完成させる最後のピースです。
マンチーニの濃厚な小麦の甘みに対して、対極にあるマリチャの鋭い香りをぶつけることで、シンプルながらも重層的な、本場ローマの味が完成します。
特にカルボナーラはブラックペッパーのキレがコントラストとなります。是非マリチャのブラックペッパーで作ってみてください。

Zanetti(ザネッティ)のペコリーノ・ロマーノ
ザネッティは、イタリアのロンバルディア州に本社を構える伝統的チーズメーカーのブランドです。
創業は1900年代初頭と、100年以上の歴史がある老舗で、イタリアを代表する硬質チーズ(ペコリーノ・ロマーノやグラナ・パダーノなど)を世界中に輸出する大手メーカーです。カルディでお馴染みですね。
ザネッティのペコリーノ・ロマーノは、D.O.P.(原産地名称保護)認定を受けた厳格な基準で生産されており、そのままでもワインの最高のお供ですが、パスタに使うとクリーミーなソースへと変貌します。
カルディで手軽に買える本格的なザネッティのペコリーノは、日常の料理を一瞬でローマの食卓に変えてくれます。

自家製のグアンチャーレ
グアンチャーレは、東京だとEATLYや明治屋などを探せば置いてあることもありますが、個人的には自家製で作ることをお勧めします。
原材料である豚の頬肉、日本だと首肉あたり(脂を削ぎ落とす前の豚トロ)のお肉を手にいれることが難しいですが、精肉店に頼み込むかECサイトを探すかで入手できれば、ピチットシートで簡単に作ることが出来ます。
パンチェッタを作った時の記事の後半に自家製グアンチャーレの写真も乗せていますので良かったらご覧ください!

今回は過去に作って真空パックで保存していたグアンチャーレを利用しました。


実際の調理工程
ここからは実際の調理工程のご紹介です。
卵黄、ペコリーノ、ブラックペッパーをボウルに入れる
卵黄は取り分けて、ペコリーノとマリチャを削ってボウルに入れます。



グアンチャーレを極弱火でじっくり脂を抽出(レンダリング)する
グリーチャ、アマトリチャーナと同じく「ソースの主役は豚の脂」です。


写真は4皿同時に作った時の写真なので3つの山になっていますが、1皿で作る時も同じです。
決して焦がさないように、弱火でじっくりじっくりと脂を「抽出(レンダリング)」していきます。
今回はレンダリングが終わった後に一回まとめてお皿にとり分けて、それぞれのフライパンに分配しました。
カルボナーラはフライパンではなく、上記の通り燕三条のボウルです。
卵黄、ペコリーノ、マリチャを挽いた燕三条のボウルにグアンチャーレの脂を投下します。



パンチェッタで代用は可能か?
パンチェッタでも代用可能で美味しくは作れますが、ローマらしさは確実に一段落ちます。
- グアンチャーレの特徴
- 脂が硬く、溶け出しすぎない
- 加熱しても香りが残る
- 旨味がストレート
派生レシピとして、パンチェッタやパルミジャーノなどで作ってみるのも楽しいと思いますが、一度は本場のレシピでグアンチャーレで作ってもらいたいです!
パスタを茹でる
グアンチャーレの脂を抽出(レンダリング)出来たらパスタを茹でます。
慣れたら先にパスタを茹でてもOKですが、焦っていいことは1つもないので最初はレンダリングが終わってからパスタを茹で始めましょう。
パスタを茹でる時にはMOTHIAの塩を入れると良い感じです。

ボウルの中身を混ぜて、パスタの茹で汁で伸ばす
ゴムベラでボウルの中身を混ぜます。
ネッチャネッチャしますが気にせず混ぜましょう。、一塊になったらパスタの茹で汁を加えてトロトロになるまで伸ばします。
もし茹で汁を入れ過ぎてシャバシャバになってもある程度は後の火入れでカバー出来ますので安心してください。


パスタを投入してカリカリのグアンチャーレを投入、マンテカトゥーラへ
規定の茹で時間の1分ほど前で上げたパスタを投入して、ボウルの中のソースベースとしっかり混ぜ合わせます。


ここから火入れですが、個人的にはバーニョ・マリアという手法がオススメです。
「マリア様の湯」というテルマエロマエ感が出てくるネーミングですが、ボウルを湯煎してゆっくり火入れをする技術です。カルボナーラは火入れが難しく、火を入れすぎると卵が炒り卵になってボソボソになってしまいますが、この手法だと安心です。
やり方は簡単で、パスタを茹で上げた鍋の上にボウルを置いて、その上でトングでクルクルパスタを回すだけです。
徐々に全体にとろみが出てきてツヤが出てきます。適度にボウルを振ってパスタに空気を入れましょう。
もしボウルが小さくてうまく触れない場合は、トングでパスタを持ち上げて混ぜれば大丈夫です。めちゃくちゃ簡単に卵に火を入れることが出来ます。
※ここの火入れが甘いと、カルボナーラではなく卵和えパスタになってしまいます。しっかりと粘度が出るまで火入れをしましょう。

失敗しやすいポイント|卵が固まる原因と対処法
カルボナーラは味は勝手に決まるので、大事なポイントは火入れの方法です。
「ボウルで仕上げる、フライパンで作る場合は極弱火で火入れをする」とだけ覚えておけばOKです。
ペコリーノと同じように、卵も65度から固まり始め、70度を超えると炒り卵になります。
この「65度の壁」もボウルでの仕上げであれば安心です。
- 卵液の混ぜが甘くてダマになる
- 卵液が冷た過ぎてパスタを入れた時に温度差で分離してしまう
- フライパンでやる場合、火にかけてしまった状態で卵が固まってしまう
今回作って感じたこと(所感)

今回4皿を同時に作って強く感じたのは、カルボナーラは、ローマパスタの中で最も濃厚で、非常に完成度が高く設計されたパスタであるということです。
グリーチャまでの「ペコリーノ+グアンチャーレ+胡椒」という骨格ベースに、アマトリチャーナはトマトの酸味で全体を下支えして調和していましたが、カルボナーラの卵黄は濃厚なコクで全体をまとめ上げている印象です。
すごく濃厚な味なのに、そこに挽きたてのブラックペッパーが合わさることで全体がキリッと引き締まり、最後まで重くならずに楽しめる、まさにみんな大好きな味の一皿でした。
ローマ4大パスタを通して作ってみて、カルボナーラは「派手だから有名」なのではなく構造として完成しているから世界に広まったのだと実感しました。
これでローマ4大パスタがすべて出揃いましたので、ローマパスタの進化を辿る旅は終了です。今回はレシピの成り立ちや背景を理解すると、料理をすることが楽しくなるなと改めて実感することが出来ました。
4皿を同時に作って分かった「本当の違い」と、効率的な同時調理の戦略は、ぜひこちらの概論記事で改めてチェックしてみてください。

今回は伝統的なレシピで統一しましたが、このレシピをベースとして個人の好みにアレンジをしていくこともまた料理の楽しさですよね。素敵なパスタライフを楽しみましょう!
最後までご覧いただきありがとうございました!マンテカトゥーラ!!
