カチョ・エ・ペペでチーズと胡椒だけの誤魔化が効かない厳しさを知り、グリーチャでグアンチャーレの脂がもたらす圧倒的な旨味を体感した次は、アマトリチャーナです。
グリーチャにただトマトを加えただけ。工程としては、たったそれだけの違いなのに、仕上がりの印象は驚くほど変わります。
チーズと脂の旨みだけの世界にトマトの酸味が入り込むことで、重厚だった旨味は一気に輪郭を持ち、料理としての完成度が跳ね上がります。まさにグリーチャの「白」が、ここで初めて「赤」へと転じるのです。
この記事では、アマトリチャーナというパスタの立ち位置から、トマトパスタにしないコツ、家庭で失敗しない作り方までを実体験ベースで整理していきます。
アマトリチャーナ成功のポイントは以下の3つです。
- トマトは主役ではなく、グアンチャーレの旨みをつなぐ役に徹する
- グアンチャーレは極弱火で「脂を引き出す」
- 仕上げのペコリーノは、塩味の調整役
なおこのレシピは、ローマ4大パスタ同時調理検証の第3弾です。
パスタの進化の歴史や、4皿を同時に作る戦略についてはこちらをご覧ください。

アマトリチャーナは「トマト」が加わったローマパスタの完成形
グリーチャまでが「羊飼いと労働者のパスタ」だとすると、アマトリチャーナは都市ローマのパスタです。
カチョ・エ・ペペに豚の脂(グアンチャーレ)が加わりグリーチャが生まれ、そこにトマトという新しい主役が加わったことで、味の輪郭が一気に外向きに広がったものがアマトリチャーナです。
脂とチーズの内向きな旨味に、トマトの酸味と色気が加わることで、ローマパスタは家庭の賄い飯から街の名物料理へと進化しました。
ちなみにグリーチャは、アマトリチャーナ・ビアンコ(白のアマトリチャーナ)とも呼ばれます。
(※文法ではビアンカが正しいですが、日本ではビアンコと呼ばれるのが一般的ですね)。
歴史的なレシピの成り立ちとしては、アマトリチャーナがグリーチャロッサ(赤のグリーチャ)と呼ばれるが正しいような気もしますが、アマトリチャーナの知名度が高いのでグリーチャがアマトリチャーナ・ビアンコ(白のアマトリチャーナ)なんでしょうね笑
※トマトなしのアマトリチャーナ(グリーチャ)のレシピを詳しく知りたい方はこちらをご覧ください!

※トマトではなく卵で全体をまとめたカルボナーラのレシピを詳しく知りたい方はこちらをご覧ください!

グリーチャにトマトが加わった理由
トマトは、もともとローマ料理の中心食材ではありませんでした。南米原産のトマトがイタリアで本格的に食べられるようになるのは18世紀以降です。
アマトリチャーナ発祥の地とされるアマトリーチェ村では、グアンチャーレ、保存性の高い乾燥パスタ、流通し始めたトマトという条件が揃い、普段食べていたグリーチャにトマトを加えるという自然な進化が起こりました。
ここで重要なのは、トマトは「主役交代」ではなく「役割の追加」という点です。
トマトはグアンチャーレの脂の重たさを切り、チーズの塩味を受け止めて全体を食べ続けられる味に整えてくれる構造を完成させるための存在です。
玉ねぎを入れるべきか否か
本場ローマのアマトリチャーナに玉ねぎは入りません。
理由は単純で、旨味の主役がすでに揃っているからです。
グアンチャーレの脂、トマトの酸味、ペコリーノ・ロマーノの塩味で、味の骨格は完成しています。
ここに玉ねぎを入れると甘みが加わり、味は丸くなりますが、その分、グアンチャーレとトマトのコントラストが弱まってしまいます。
玉ねぎが入っていた方が好きな方はもちろん入れて良いと思いますが、ローマの伝統的なレシピでは玉ねぎは使いません!
アマトリチャーナのルール
伝統的なローマパスタに共通しているルールは覚えてますか?
そうです、それは、チーズは必ず「ペコリーノ・ロマーノ」であること。
また上記にも書きましたが、アマトリチャーナはグリーチャにトマトの酸味を加えたパスタなので、トマトソースがベースの料理ではありません。味を決めるのはペコリーノの塩味であり、グアンチャーレの脂です。
アマトリチャーナの食材(1人分)
基本はグリーチャに裏漉しをしたトマトを足すだけです。
- パスタ(スパゲットー二など、2mm以上の太いパスタがおすすめ):80g
- ペコリーノ・ロマーノ(ブロックから削る):15g(グリーチャより少なめでOK)
- パスタの茹で汁:適量
- グアンチャーレ:30g
- 裏漉ししたトマト缶(ホールでもカットでもどちらでも):100g
シンプルだからこそ食材にはこだわりたい
MANCINI(マンチーニ)のスパゲットー二
マンチーニは、イタリアのマルケ州に本社を構えるパスタメーカーです。
2010年創業と若いパスタメーカーですが、彼らの最大の特徴は、イタリアでも非常に珍しい「自社栽培の小麦のみを使用する」という徹底したこだわりです。いわば「農家が作る、パスタの理想形」です。
一般的なパスタは効率重視で高温短時間乾燥させるのに対し、マンチーニは45度以下の低温で最大60時間という長い時間をかけてじっくり乾燥させます。
これにより、小麦本来の豊かな香りと栄養、そして「もっちりとしていながら歯切れの良い」唯一無二の食感が生み出されます。そして茹で汁にデンプンがしっかり溶け出して乳化を助けてくれます。
またブロンズダイス(伝統的なブロンズ(真鍮)製の金型)でパスタを押し出すので、表面にザラザラとした「サメ肌」のような質感が生まれます。これがグアンチャーレのパンチある旨み脂と調和した粘度のある濃厚なトマトベースをしっかりと捕まえてくれます。
ローマパスタにはブロンズダイスのパスタが必要不可欠です。

Zanetti(ザネッティ)のペコリーノ・ロマーノ
ザネッティは、イタリアのロンバルディア州に本社を構える伝統的チーズメーカーのブランドです。
創業は1900年代初頭と、100年以上の歴史がある老舗で、イタリアを代表する硬質チーズ(ペコリーノ・ロマーノやグラナ・パダーノなど)を世界中に輸出する大手メーカーです。カルディでお馴染みですね。
ザネッティのペコリーノ・ロマーノは、D.O.P.(原産地名称保護)認定を受けた厳格な基準で生産されており、そのままでもワインの最高のお供ですが、パスタに使うとクリーミーなソースへと変貌します。
カルディで手軽に買える本格的なザネッティのペコリーノは、日常の料理を一瞬でローマの食卓に変えてくれます。

自家製のグアンチャーレ
グアンチャーレは、東京だとEATLYや明治屋などを探せば置いてあることもありますが、個人的には自家製で作ることをお勧めします。
原材料である豚の頬肉、日本だと首肉あたり(脂を削ぎ落とす前の豚トロ)のお肉を手にいれることが難しいですが、精肉店に頼み込むかECサイトを探すかで入手できれば、ピチットシートで簡単に作ることが出来ます。
パンチェッタを作った時の記事の後半に自家製グアンチャーレの写真も乗せていますので良かったらご覧ください!

今回は過去に作って真空パックで保存していたグアンチャーレを利用しました。


La Preziosa(ラ・プレッツィオーザ)のトマト缶
カルディでお馴染みのトマト缶ですね。
細長い形が特徴のサンマルツァーノ種などのトマトを使用した、ホールタイプ(丸ごと)のものです。トマトの名産地として知られるカンパーニャ地方産のトマトから、さらに選りすぐった高品質のトマトのみを使用されています。
酸味と甘みのバランスが穏やかで、グアンチャーレやペコリーノの存在感を邪魔しません。
イタリア産のトマトを使用していれば問題ありません!
※トマト缶だけの写真が撮れていなかったので全体の写真です。(ごめんなさい。。)

実際の調理工程
ここからは実際の調理工程のご紹介です。
トマト缶を裏漉して下準備する
トマト缶をザルに入れて裏漉ししてボウルに取っておきましょう。


グアンチャーレを極弱火でじっくり脂を抽出(レンダリング)する
グリーチャと同じく、「ソースの主役は豚の脂」です。


写真は4皿同時に作った時の写真なので3つの山になっていますが、1皿で作る時も同じです。
決して焦がさないように、弱火でじっくりじっくりと脂を「抽出(レンダリング)」していきます。
今回はレンダリングが終わった後に一回まとめてお皿にとり分けて、それぞれのフライパンに分配しました。
アマトリチャーナ用のフライパンはバッラリーニのサリーナです。
表面コーティングが強いので、トマトの酸と水分をしっかり受け止められて、ソースの跳ね・焦げ付きが少なく、色と香りをクリアに保てます。
最近はほぼこのバッラリーニのフライパンをメインで使っています。本当に使い勝手の良いフライパンです。



パンチェッタで代用は可能か?
パンチェッタでも代用可能で美味しくは作れますが、ローマらしさは確実に一段落ちます。
- グアンチャーレの特徴
- 脂が硬く、溶け出しすぎない
- 加熱しても香りが残る
- 旨味がストレート
派生レシピとして、パンチェッタやパルミジャーノなどで作ってみるのも楽しいと思いますが、一度は本場のレシピでグアンチャーレで作ってもらいたいです!
パスタを茹でる
グアンチャーレの脂を抽出(レンダリング)出来たらパスタを茹でます。
慣れたら先にパスタを茹でてもOKですが、焦っていいことは1つもないので最初はレンダリングが終わってからパスタを茹で始めましょう。
パスタを茹でる時にはMOTHIAの塩を入れると良い感じです。

フライパンに裏漉ししたトマトを加えてソースのベースを作る
温めておいたフライパンに裏漉ししたトマトを投入して煮詰めます。フライパンの温度が高すぎるとトマトが跳ねてキッチンが大惨事になりますので注意してください。
煮詰める目安は、水分を飛ばして、グアンチャーレの脂とトマトが完全に一体化(分離していない状態)した状態です。ここでも茹で汁を入れて濃度を調整しましょう。トマトのおかげでそこまで気にしなくてもグアンチャーレの脂の乳化は勝手に進みます。
そして規定の茹で時間の1分ほど前で上げたパスタを投入して、火にかけてソースベースとしっかり混ぜ合わせます。


ここで一度フライパンを煽って乳化したソースベースとパスタを和えます。
掛け声はマンテカトゥーラ!マンテカトゥーラ!!です。

ここから先の注意点は、カチョ・エ・ペペ、グリーチャと全く同じです。
必ず火を止めて、何度かフライパンを振って温度を下げた上で、ペコリーノを数回に分けて入れていきます。
フライパンの温度が高い状態でペコリーノを入れてしまうとすぐに固まってしまってダマになります。
65度を超えてくるとチーズに含まれるタンパク質が凝固してゴムのようなダマになります。
一度固まったチーズはもう滑らかなソースにはなりません。マンテカトゥーラ(乳化)の理想は60度前後です。
いま見返すと、アマトリチャーナもちょっとチーズがダマになってますね。。(全然うまく作れていない笑)
蓄熱性の高いフライパンで作る時は、特に温度管理に注意するようにしてください!


失敗しやすいポイント
弁明ですが笑、チーズは多少ダマになってもトマトが受け止めてくれるのでそこまで気になりません。
大事なのはトマトの量です。
「あくまでトマトは補助、味の決め手はグアンチャーレとペコリーノ」とだけ覚えておけばOKです。
- トマトを煮詰めすぎて酸味が飛ぶ
- トマトの量が多過ぎてただのトマトパスタになる
- チーズを入れる際にフライパンの温度が高すぎてダマになる
今回作って感じたこと(所感)
個人的に今回4皿を同時に作って強く感じたのは、アマトリチャーナは、最も“レストラン的”なローマパスタだということです。グリーチャの系譜にありながら、トマトの存在感によって、その出自を知らなければ派生とは気づかないほどに独立し完成された一皿になっています。
グリーチャでは前面に出ていたグアンチャーレの脂の重さやチーズの塩味の輪郭が、トマトの酸味が入ることで一段奥に引き下がり、全体が見事に調和します。
トマトが全体を調和してくれているので食べやすさは一気に上がり、労働者のパスタからレストランで提供される都市型のパスタへと昇華されています。
このトマトの性質こそが、アマトリチャーナがローマから世界へ広がった理由なんだなと思いました。
本当に美味しいのでぜひ一度作ってみてください!
トマトで外に向かっての新しい境地を切り拓いたアマトリチャーナを作ったあとは、再び内側へ向かう進化を遂げた「旨みとコクの暴力」カルボナーラ(ローマ4大パスタの最終章)です。ローマパスタ進化の最終章はこちらからご覧ください!

最後までご覧いただきありがとうございました!マンテカトゥーラ!!
